jupesjupesjupesの日記

福多ラナイのくだらないショートショート

2、C. ジェイ氏の発明

 
C.ジェイ氏は、国家予算程の大金をつぎ込んで開発した、超最新式のコンピューターを引っさげて、この世界で3本の指の中に入るであろう超大金持ちであるA.ピー氏の家に向かった。
 
A.ピー氏の邸宅はこれでもかというほど贅を尽くしたいわゆる豪邸そのものであった。
 
A.ピー氏の庭園は山をいくつも切り開き、人工の湖を掘り、そこに人工の川を流し入れ、湖上には常に虹が浮かび上がるように設定され、また霧のように吹き出す噴水も設置されていた。
 
庭園は、自然のサイクルにあがない24時間、昼間のごとくまぶしい光で満ちるように人工の太陽がいくつも空に浮かび上がり、まばゆい神々しい光を放っていた。
 
時にはきまぐれに昼間に人工の夜の闇を造り上げ、その空に巨大な黄金の満月を浮かべたり、宝石を散りばめたような満天の星空を造り上げて、月見パーティなどを催すこともあった。
 
また庭園には世界中から取り寄せた色とりどりの珍しい花々が咲き誇っていた。それらは季節に関係なく一年中満開の花が絶えないように、一輪散ると隣の花が次々と咲くようにと巧妙に設計されていて、常に庭園を美しくロマンチックに彩っていた。
 
更にその庭園にはやはり世界中から集められた希少動物達が、争うことなく餌を好きな時に好きなだけもらえる為に、平和そうにのんびりと暮らしていた。
 
そこはまさに地上の楽園そのものに見えた。
 
その庭園の中のところどころに、世界中から集められた古城を最新式な建築物として再建築された美しい城が建ち並び、この楽園に人が住んでいることを示していた。
 
そこに突如現れたC.ジェイ氏は、その見るものを圧倒するような様相の邸宅にそびえたつ重厚な石造りの門構えの門を、臆することなく乱暴にノックし、その邸宅のバトラーを呼びつけ、主人に会わせる様に言いつけた。
 
バトラーも、C. ジェイ氏の常々の強引極まるマナーには慣れていると見えて、慇懃無礼な程、丁寧に応対し、C. ジェイ氏を邸宅の中に招き入れた。
 
テニスコートほどの広さの玄関に続く、向こう側の壁が霞んで見えないほどの広大なロビーにおいて、出迎えたこの邸宅の主人であるA.ピー氏は、長年の付き合いであるC. ジェイ氏に会うと、皮肉たっぷりの笑顔で挨拶をし「今回は何をまた発明したというのだね?」と訊ねた。
 
その質問に対し、C. ジェイ氏は「まあ見たまえ、これは宇宙レベルの叡智をすべて取り入れた超最新式のコンピューターさ。どんな質問にも0,1秒と掛からず答えを出してくれるという代物だ。しかも羽根のように軽く、コインよりも小さいという、世界中、どんな知恵ものでも真似ができない程の驚愕の人工知能装置なのだ。今回はこれを買ってもらおうと思ってわざわざやって来たのだ」
 
C. ジェイ氏は上着の内側からコインのような小さいものをかなり乱暴にA. ピー氏の目の前に突き付けると、そう言い放った。
 
「うーん。なるほど、たしかに見た目はコインのようで小さいが、性能のほどはいかなるのもかまったく見た目には分からない。それでは試してみようではないか。わたしの質問にすべてよどみなく答えられたら買ってやろうではないか。しかしいったいいくらで売りつけようというのだね?」
 
その質問にC. ジェイ氏は世界の有数な島々がいくつも買えるほどの金額をふてぶてしく、そのふてぶてしい口元から発した。
 
A.ピー氏は丸々とした両腕をまた丸々と山のように突き出した腹の上で組み「うーむ」とうなった。
 
「わたしにとっては無理ではない金額だが、買うにあたってはそれ相応の成果を出してくれないとな。確かに最近は、世界中の最新式で珍しいものをすべて買い尽くしてしまい飽き飽きとしていたところだ。ではさっそく試してみようではないか」
 
A.ピー氏はそう言うと、C.ジェイ氏からコイン状の装置を借り、いろいろなことを質問してみることにした。
 
まずはバトラーに最新式のコンピューターを持ってこさせ、その中に入っていた世界の超がつくほど難関大学の博士課程の、これまた超難問である入学問題を引き出させて、C. ジェイ氏の装置に訊ねみることにした。
 
C. ジェイ氏のコイン状の装置はすべての質問に対し、瞬間的にピカッと光を放ったかと思うと、0.1秒も掛からず、男性とも女性とも分からない中性的な涼やかや美しい声で正確なる答えをすらすらと発したのであった。
 
むむむ…とうなりながら、A. ピー氏は、今度は世界中の数値で出せる科学的な質問をしたり、または文学、歴史、宗教とあらゆる分野にわたって質問をしてみたが、どの質問に対しても、その装置はピカッと光ったかと思うと、0,1秒も掛からず、さわやかな声で答えを返してくるのであった。
 
最初は面白がっていたA.ピー氏もやがてはむきになっていささかイラつきながら、どこかに答えられないような質問がないか、今度はプライドをかけて、装置の弱点をさぐるようなあらさがしの為の俗的な質問をし始めた。
 
C. ジェイ氏はニヤニヤしながらそのやり取りを見つめていた。しまいにはA.ピー氏は真っ赤になって噴き出す汗を高級ブランドのハンカチで抑えながら、
「えい!今度は答えられないだろう!これはどうだ!『この地球で一番無駄なものはいったいなんだ?さあ!答えてみろ!」
 
するとコイン状の装置はやはり一瞬ピカッと光ったと思うと0,1秒も掛からず、涼やかな声で、「それは人間です」と答えた。
 
A. ピー氏はますます真っ赤になり激怒して口角から泡を飛ばしながら「なに?人間だと!この馬鹿者め!人間とは地球の至高の生物だ!食物連鎖の頂点だ!知恵そのものだ!このわたしを見て見ろ!地球のすべてを持っておるわい!さあ、なんでそんなことを言った!答えてみろ」
 
するとやはりそのコイン状の装置は一瞬ピカッと光ったと思うと涼やかな声で、
「人間は古代から地球のすべてを破壊します。資源を使い放題使います。生物を殺傷します。自然のサイクルを狂わせます。やたら増殖します。よってやることなすこと存在そのものがすべて地球にとって無駄なことです」
 
A. ピー氏は、その答えに怒りによって真っ青になりガタガタと震えだし、「なんだとこの貴様!装置だと思って甘やかしていたが、許せん!このわたしを侮辱しおって!お前をどうしてやろうか?」
 
するとその質問に対してコイン状の装置はやはり一瞬ピカッと光ったかと思うと、0,1秒も掛からず涼やかな声で、
 
「あなたを含めて無駄な人間のすべての無駄な質問に対して懇切丁寧に正確な答えを出しているこの装置そのものが無用であるという結果になりました。よってこの質問を最後に消滅させて頂きます」
 
と美しい声を発すると瞬間に虹色の光を放って爆発し、粉々に空中分解すると煙のように搔き消えてしまった。
 
あとには口を開いてぼんやりと掻き消えていく煙を眺めながら立ち尽くしているA. ピー氏とC. ジェイ氏が霞みのごとき幽霊のように存在していたのだった。