jupesjupesjupesの日記

福多ラナイのくだらないショートショート

4、Oral Man


歯痛に悩みながらC. ジェイ氏は考えた。

「どうして人間とは、食べるところと、しゃべるところが一緒なのだろうか?」

という疑問が湧いてきた。

「人間は他の動物と違って話すというコミュニケーション・ツールがある。人はそのあらゆる知識を発して披露せねばならない身体の箇所がこの口である。人前で上品に話さなければいけない時に、本能的で動物的であり下品な行為である食物を嚥下する部分が同じ個所であり、それを食事をしながらコミュニケーションを図らなければいけないという場があるとすると、それは、口を開いて、食物をそこに放り入れ、そして嚥下した後に、口を押えてしゃべることがマナーだとすると、なんとも人間とは矛盾だらけの動物なのだ・・・いっそのこと、この身体を改良してしまえば人間とはより完璧に上品で美しく、かつ機能的な生物になり、この地上の王としての風格と品格を保てるのではないか…」

という結論に達した。

そこでC. ジェイ氏は完璧なる生物を造り上げる為に、唯一の助手であり、一切文句も不平も言わないエヌ氏を使い改造人間を造ることにした。

最初に、しゃべる能力を持つ部分をどこに作りくっつけようかと悩み、最初の実験では頭のてっぺんにしゃべる穴を造ってみることにした。

そして食べる機能の口は、今までのまま顔の中央下部分に保っておくことにした。

実験のテストをする為に、エヌ氏にしゃべらせながら、食事をさせてみることにした。

「どうかね?エヌよ、食べ物の味は変わらぬか?そしてひとつなんか言ってみたまえ」

するとエヌ氏は、頭のてっぺんの髪の毛を揺らしながら「はい、ご飯はとても美味しいです、でもなんとも息がもれる感じが否めません」と空気がもれるようなひーひーというような音を出しながらしゃべっている。

C.ジェイ氏は「ううん…どうもこれでは、しゃべるこちらもどこを向いてしゃべったら良いやら悩んでしまうな、また改良してみるとするか」と言ったかと思うと、エヌ氏を麻酔で眠らせて、再び改良をし始めた。

今度は、しゃべる口を今までの顔の中央下のところとし、食べる口は食事のテーブルに近い胸の辺りにつけることにした。

改良後、さっそくエヌ氏に食事をとらせながら、話し掛けてみた。

「今度はどうだい?快適に食べられてしゃべられるかい?」

すると両方の手でごはんと箸を使い、上半身のシャツをはだけて、その箸ですくったご飯を胸の口に運んでいたエヌ氏は、

「そうですね、前の口よりはしゃべり易いようです。そして食べる方の口もテーブルに近いし、食べ物もこぼさずに、また冷めないうちにすぐにこっちの口に運べるし、良い感じがします」とまっすぐC.ジェイ氏の方を向いて答えた。

「うーん、これは成功と言っても良いかも知れん。これでいくか!」

するとエヌ氏は「先生、私のような男性であったら、このように人前で胸をはだけても問題はありませんが、ご婦人方にとっては抵抗があるかも知れませんよ」と心配げに忠告をした。

「うーん。確かにそうだな。ご婦人方の事まで頭に浮かばなかった。よし、また改良だ」

と、さっそくエヌ氏を再び麻酔で眠らせると実験室に運び込み、改良を施した。

「ふー、今度はどうだ?食べる口を喉の中央につくってみた。しゃべる気道と、食事を嚥下する食道を別々につくってみたぞ」

そう言い、さっそくエヌ氏に食事をとらせながら会話をすることにした。

「今度は前より快適かい?」とC.ジェイ氏がエヌ氏に訊ねると「はい、そうですね。少々、食べ物を運ぶ口は高くなり少々不便ではありましたが、シャツをはだけたり汚したりすることが無くなったようです」とエヌ氏は、慣れないながらも器用に両手でご飯茶碗と箸を使い、ご飯を喉にある口に運びながらしゃべっていた。

「よし、これで行こう!3度目の正直という言葉もあるように、これでいい結果としよう」とC. ジェイ氏は言うと、自分に麻酔を打ち、大きな鏡を用いて自分に手術を施し、喉に食事用の口をつくり上げることに成功した。

しばらく顔の中央下の口と喉の口で生活をしてみることにした。

世間に発表するとまたたくまに評判となり、C.ジェイ氏に手術を頼みに来る者が殺到し、C.ジェイ氏は大いに稼ぐことができた。

しばらくそのリッチな日々を過ごしていたC.ジェイ氏はある苦痛に悩ませられることになった。

「ううん、しまった喉にある方の口の中が虫歯だらけになったようだ。おまけにしゃべる方の口の中も放置していたから虫歯だらけで痛む。口が2つになった分、歯医者に行く用事が2倍になったわい。これでは世の中の歯医者をもうけさせるだけだ。歯医者達から分け前をもらわねばやってられぬ…」とC.ジェイ氏はぼやくのであった。

まだまだ改良は必要のようである。